辞書などに記載されている「発音記号」は、記載する辞書によって、また記載する音声学者によって記載されている記号が違うことがあります。なぜそんなことが起こるのでしょうか?
1888年に、国際音声学会が「世界中の言語を一つの文字形式で表せたら」という思想の元、国際音声記号(IPA)というものが作られました(表1)。
そこから2020年の最新版まで、「この言語を表すにはこの記号が必要だ」ということで何度も改訂を重ねてきました。
この国際音声記号(IPA)は英語のためだけに開発されたものではありません。壮大な思想として、全ての言語を表せる様にしようというものです。
この中から、英語の音声学者が「英語の音を表すにはこの音が一番ふさわしい」記号を恣意的に選ぶのです。
当然、音声学者によって選ぶ記号に差が出てしまうし、時代の流れと共に発音が変わり、当てはめる文字に齟齬が出てきてしまうし、或いは英語の音を表すために音声学者がIPAにはない独自の文字を使うかもしれません。
しかしながらポイントは、辞書や音声学者によって多少の記号のズレはあるものの、「あの音を指し示したい」という思想は共通しています。
ですから、どのような記号で英語発音が記載されていたとしても、同じ単語であれば同じ「あの音」を指し示していることがほとんどです。
アクセントが母音の上に表記されています。
一方で、英語圏の一般的な辞書ではアクセントがある音節の直前にアクセント表記があります。※どちらの表記も、伝えたい内容は一致しています。
アクセントが二つある単語の場合、日本の一般的な辞書ではアクセントが母音の上に二つ表記されます。※「′」が第一アクセント、「`」が第二アクセントです。
英語圏の一般的な辞書ではアクセントがある音節の直前にアクセント表記があります。※「ˌ」が第一アクセント、「ˈ」が第二アクセントです。
ケンブリッジ辞書では、音節ごとに区切るマークが表記されています。
音節ごとに「.」で区切られています。
ケンブリッジ辞書では、アメリカ英語の「叩き音」或いはFlap Tと呼ばれる音専用の表記が存在します。※”t”の下に”v”の様なマーク
専門書などでは、/e/が/ɛ/と表記されることがあります。専門家によって、「どの記号をIPAから選ぶべきか」の考え方が異なるからです。
専門書などでは、アメリカ英語の/ʌ/は/ə/に置き換わっていることがあります。アメリカ英語では音の違いがないからです。
音に違いが出ない中、/ʌ/と/ə/の残された違いは、/ʌ/にはアクセントが存在し、/ə/にはアクセントが存在しないということです。